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福岡高等裁判所 昭和40年(ネ)600号 判決 1966年7月18日

控訴人・原告 山本有望

訴訟代理人 中村達

被控訴人・被告 共立製綱株式会社

訴訟代理人 木村憲正

主文

原判決を取消す。

本件を長崎地方裁判所に差戻す。

事実

控訴代理人は、「主文同旨。」の判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用、認否は原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

被控訴会社が本件訴訟の係属中である昭和三九年七月一八日訴外長崎製綱株式会社(後に同会社は商号を共立製綱株式会社と変更)に吸収合併されて解散し、同年八月三日その旨の登記を経由したことは当事者間に争がない。

そこで会社の合併による訴訟の承継について考えるのに、会社合併の本質は二以上の会社が契約に因つて一会社に合同するにあり、いわば人格の合一が行なわれる点にあるから、原則として合併後存続する会社は合併によつて解散消滅した会社の権利義務を包括的に承継し、これに因つて訴訟の承継がなされるものであることはもとよりであるけれども、その権利義務の性質によつては、これが解散会社に専属して承継の観念をいれる余地のないものの存在することも考えられる。

これを本件についてみるに控訴人の本訴請求は、被控訴会社が昭和三八年一二月八日にした新株二、四〇〇株の発行が定款及び商法の規定に違反して無効であることを理由に右新株発行無効の判決を求めるというのであるから、かかる訴訟が本件合併に因り存続会社である訴外会社に承継されるか否かが争点となつている。

思うに前記合併の本質に照せば、合併により解散会社の株式は消滅して存続会社の株式に代ることになるが、右新旧の株式は法律上同一性を有するものと解すべく、このことは、解散会社についていえば、合併前に新株の発行が行なわれた場合の新株式についても同様である。本件においては本件合併前既に被控訴会社の前記新株発行について、株式引受人による払込が完了し合併による解散を了したことは、当事者間に争がないので、右新株発行に伴う法律上財産上の効果は合併に因り当然存続会社に承継せられたものというべく、たといこれにつき新株発行無効の訴が提起せられ、合併当時尚係争中であるとしても、この訴訟の判決の効力に関する商法の規定からみて右の結論を左右しない。そうすると存続会社である訴外会社に本件訴訟を承継させた後仮に同社が敗訴したとしても、新株の株主に対する払込金の払戻等判決確定後の事務処理をするにつき合併の問題を含まない通常の新株発行無効判決確定後の事務処理に比し特段の支障はないものと考えられる。(かえつて訴外会社が解散会社たる被控訴人の地位を承継せず、したがつて本件訴訟を承継しないとすれば本件控訴人等は被控訴会社の取締役の責任を追及できるにとどまり、その結果の不当であることは言うをまたない。)

原審は新株発行は株式会社の組織法上の行為であるから、その無効宜言を求める訴の性質上当該株式会社に専属し合併によつても承継されないとの見解を示しているが、新株の発行が、一面において会社の内部組織に関する法律関係であることはこれを否定できないけれどもその反面株式会社法はいわゆる授権資本制を採用し会社成立後の株式の発行を定款変更の一場合とせずその発行権限を取締役会に委ねており、新株発行の効力発生のためには発行を決定された株式総数の引受及び払込を必要とせず払込期日までに引受及び払込のあつた部分だけで有効に新株の発行をなし得るものとしている等の点から考えると新株の発行は株式会社の組織に関するものとはいえ、寧ろこれを会社の業務執行に準ずるものとして取扱つているものであり、従つて新株の発行は会社の取引的行為として把握するのが相当であるから、その無効宣言を求むる訴をもつて会社の設立無効の訴の如く、当該会社に専属し、合併によるも存続会社に承継せられないものと解するのは妥当でない。

以上の諸点を綜合して考えると、本件新株発行無効の訴は解散会社である被控訴会社に専属し、その消滅により終了したと判断するのは相当でなく、存続会社が本件訴訟を承継するものと解すべきである。(なお被控訴代理人は原審において、控訴に関する事項につき特別の委任を受けているので、控訴会社の解散によるも本訴は中断しない。)

そうすると、右と異なる見解の下に本訴は被控訴会社の解散により終了したとする原判決はこれを取消すべく、民事訴訟法第三八八条を適用して本件を第一審裁判所である長崎地方裁判所に差戻すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川井立夫 裁判官 木本楢雄 裁判官 松田冨士也)

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